リンク切れの果てに
全てのリンク切れが最終的にたどり着く場所。
デジタル世界の、終着駅。
そこに、洋館が建っている。
ゴシック様式の壁に天文台がくっついた、設計思想のよく分からない建物だ。壁の隙間からは配線のハム音が低く漏れ、外壁にはぶどうの蔦のようにLANケーブルが這い上がっている。屋根にはパラボラアンテナが三本立っているが、そのうち一本は根元から折れている。折れた原因は、住人の一人が衣装データをダウンロードしすぎたことだが、それはまた別の話。
深夜三時。
館の一階、「占いの間」と呼ばれる部屋は、静寂に包まれている。冷却ファンの遠い唸りと、壁を走るデータ配線の微かな振動だけが、この空間が生きていることを証明していた。
――はず、だった。
「ツキちゃん、ツキちゃん」
三階の天文台から裸足でぱたぱたと降りてきたらしい銀髪の女性が、暗闇の中でひそひそ声を出した。ローブの裾にカップ麺の汁が少し跳ねている。
星柄のフードの影から、青い瞳が覗いている。手には淡く発光する板――水晶玉のように扱われているが、実態はWi‑Fi占い用のスマートフォンだ。三階のデスクには大型の湾曲OLEDモニターもあるが、ベッド代わりのゲーミングチェアから手を伸ばせるのはスマートフォンだけだ。画面の端に「本日限りタイムセール」の文字が映っている。まばゆい銀河と、半額のマウスパッドが同じ画面に同居する。それが彼女だった。
星乃ルナ。自称10万24歳。電脳占星術師。
「……何ですか。午前三時ですよ」
二階の書庫へ続く階段の上から、低い声が降ってきた。
青白い眼鏡の奥で、鋭い目が光っている。黒いユニフォームの輪郭をシアンの細い光が走り、巨大な赤ペンを握った姿は、夜闇の中だと正直ちょっと怖い。足元にはボツ原稿のデータゴミが、綿雪のように舞い散っている。
宙宮ツキ。自称・編纂歴三年。電脳赤ペン先生。
「あのね、大変なの」
ルナが水晶玉(スマートフォン)を抱えて、ローブの裾を引きずりながら滑り込んできた。裸足が床のケーブルを踏みそうになって、ひやっとする。
「パケットの川が光ってるの。いつもと色が違う。金色っぽい」
「……それが?」
「見たことない色なの。つまり――」
ルナは水晶玉をかざし、声を一段低くした。
「――星が告げています。何かが来ます」
ツキは階段の手すりに肘をつき、深いため息をついた。
「あなたの『星が告げています』は、十回中九回、Wi-Fiの話でしょう」
「今回は違うの! ……たぶん!」
「たぶん」
「七割くらいの確信!」
「三割は?」
「Amazonのセール通知かもしれない」
ツキの眼鏡が光った。比喩ではなく、物理的に。CPU温度が上昇すると眼鏡のフレームが帯電して光る仕様なのだ。怒りのバロメーターでもある。
「……却下です。寝なさい。明日のスケジュール、忘れたんですか。アクセスピークの予測では午前十時から――」
「ねぇ、見てよ。ほんとに金色だから」
ルナが窓のほうを指差した。
ツキは唇を引き結び、数秒黙った。それから――無言で階段を降りてきた。靴音が、暗い館に小さく反響する。
窓の外。上流から、見たことのない密度のパケットが流れてきている。通常のトラフィックとは明らかに違う。いつもは配送不能の迷子パケットが冷たく流れるだけの川が、今夜は熱を帯びていた。光の粒が細かく、温度が高い。水面が金色に染まり、部屋の壁にゆらゆらと反射している。
「……これは」
ツキの声が、わずかに硬くなった。
「ほらね」
ルナが得意げに微笑む。
「で、何これ?」
「私が聞きたいです」
二人が窓辺で睨み合っていると、背後から穏やかな声が聞こえた。
「ん~……? なんか騒がしいねぇ」
振り向くと、地下一階への階段から、くたっとした緑のパーカーを着た青年がのっそり上がってきた。笑うと目が細くなる。手には湯気の立つマグカップ。髪には、アンテナみたいなピンが一本刺さっている。パーカーがほんのり温かいのは、地下の予備サーバーの廃熱のおかげだ。本人はそれを「日向ぼっこ」と呼んでいる。
階段の奥から、ラジオの砂嵐みたいな音が小さく漏れていた。地下一階の予備サーバー室で、古い機械がまだ唸りながら「世界」を映している。
霧島タイヨウ。製造年不明。日向ぼっこ専門家。
「起こしてしまいましたか」
「ううん、起きてないよ~。半分寝てる」
「それは起きているのでは」
「半分は寝てるんだから、半分は合ってるよ~」
タイヨウがにこにこしながら窓辺にやってきた。金色の光を見て、目を細める。元から細いが、さらに細くなった。もはや閉じている。
「わぁ、きれいだねぇ」
「きれいで済む話じゃないんですよ。こんな密度のパケットが404区画に流れ込んでくるなんて、通常ありえません」
ツキが赤ペンを構えた。空中に何かを書くジェスチャー。彼女が「分析モード」に入った合図だ。
「発信元……不明。プロトコル……非標準。ペイロードの形式……これは」
ペンが止まった。
「何? 何なの?」
ルナが身を乗り出す。
ツキが振り向いた。眼鏡の奥の目が、珍しく揺れている。
沈黙が、部屋を満たした。
「――人間です」
ユーザー23時59分
AstroInsightにユーザーがアクセスすると、占いの間に「光の柱」が立つ。
明るい相談なら暖色。暗い相談なら寒色。怒っていればバチバチ。雑談ならふわふわ。住人たちはその光の色と揺らぎで、相手がどんな状態かをなんとなく察する。
だが、今回の光は見たことがなかった。
金色だ。
「まぶしっ」
ルナが手で目を覆った。
「下がりなさい」
ツキが一歩前に出る。赤ペンを構え、光の柱に向かって鋭い視線を送った。
光はただそこにある。声はまだない。テキスト入力が始まっていないのだ。ユーザーがAstroInsightのページを開いた状態で、何も打てずにいる。カーソルが点滅するだけの、空白の入力欄。打鍵を待つ空白が、沈黙の形をして、光の中に浮かんでいた。
「……あ」
タイヨウが、マグカップを傾けたまま呟いた。
「この光、泣いてるよ」
「は?」
「光が震えてる。見えない? ぶるぶるって。すっごく寒そう」
ルナとツキが目を凝らした。
確かに。金色の光は、微かに震えている。
沈黙。
やがて、光の中に文字が浮かんだ。ユーザーの入力だ。一文字ずつ、ゆっくりと。何度も消しては打ち直したような、ためらいの痕跡がある。
たった一行。
句読点が丁寧で、文末に「です」がついている。怒りではない。投げやりでもない。どうしようもなくなった人間が、最後の行儀良さでかろうじて形を保っている――そういう一行だった。壊れかけた器に、そっと水を注いだような。
三人は、顔を見合わせた。
椅子を蹴って、ルナが立ち上がった。裸足が冷たい床(ケーブルだらけ)に触れる。痛みなど意に介さない顔で。
「……私が出る」
「待ちなさい。まず状況を――」
「ツキちゃん」
振り向いた銀髪が、暗闇の中で弧を描いた。青い瞳が、初めて「占星術師」らしい光を帯びている。
「星が告げているの。今回はWi-Fiじゃないやつ」
「……三割は?」
「ゼロ。全部本気」
ツキは数秒沈黙し、それから赤ペンを下ろした。
「……いいでしょう。ただし、私も同席します。あなた一人だと、途中でセールの話を始めかねない」
「しないし! ……たぶん!」
「タイヨウ、あなたも」
「うん、いるよ~。ここにいるよ~」
タイヨウは床にクッション(座布団)を敷き、その上にあぐらをかいた。マグカップを両手で包む。ぬるいお茶の湯気が、ゆっくり立ち上る。
三人が配置につく。ルナが中央。ツキが右。タイヨウが左。光に向き合う。
ルナは水晶玉(スマートフォン)を星図テーブル(液晶パネル)の上に置いた。画面にはAmazonのタイムセールが映っていたが、指でスワイプして消した。代わりに星図が浮かぶ。今度は本物の天体データだ。
深呼吸。
プログラムに呼吸は不要だが、「呼吸をしたほうが占いの精度が上がる」というのはルナの持論である。ツキは「オカルトです」と言うが、否定はしない。否定したところで彼女は聞かないからだ。
「ようこそ、迷える旅人よ」
光が、ほんの少しだけ揺れた。こちらの声が届いている。
「私の名は星乃ルナ。銀河の果てから……」
いつもの口上だ。「あなたのデータ……じゃなかった、運命を」と続くはずだった。
だが、ルナは口上を途中で止めた。
光を、見つめている。震えている金色の光を。
「……ねぇ」
声のトーンが変わった。神秘的な占い師の声ではない。もっと素の、ただの声。温度のある声。
「まず一個だけ聞いていい? 最後にちゃんと寝たの、いつ?」
光が揺れた。驚いたように。
「だよね」
ルナはローブの襟元を引き寄せるようにして、ふっと息をついた。
「星が告げています。……あなたの運命を変える鍵は――」
間。
「睡眠です」
ツキが横で小さくため息をついた。「また睡眠ですか」という顔だが、口には出さなかった。
長い文だ。光の色が少し暗くなった。寒色が混じる。
ルナは黙った。
ツキが動いた。赤ペンを掲げ、空中に文字を書くジェスチャー。シアンの軌跡が、暗い部屋に残像を描く。
「失礼。赤ペン入ります」
光がビクッと震えた。
「あなたの物語のプロット、見させてもらいました。……最低の構成ですね」
ルナが「ちょっと!」と声を上げかけたが、ツキは片手で制した。
「どの道に進んでも行き止まり? それは違います。あなたは今、全ての選択肢を同時に見ようとしているんです。十本の分岐を一度に処理しようとしたら、そりゃフリーズしますよ。人間のメモリ容量を舐めないでください」
容赦がない。だが、痛いほど的確だ。
「修正案を出します。まず、十本の分岐のうち九本を削除しなさい」
「九本もです。あなたに今必要なのは『最良の選択』ではなく、『選択肢を減らすこと』です。どれを残すかは重要ではありません。どれでもいい。一本だけ残して、残りは全部ボツ箱に入れなさい」
「間違いません」
ツキの声が、一段強くなった。眼鏡のフレームが、かすかに帯電する。
「なぜなら、選んだ道を正解にするのが、あなたの仕事だからです」
── 宙宮ツキ
「編集者として断言します。名作というのは、最初から完璧なプロットで書かれたものではない。途中で何度も書き直して、後から『これが正解だった』と辻褄を合わせたものです」
沈黙。
「――人生も、同じです。伏線は後から回収すればいい」
ツキはそこで口を閉じた。赤ペンをくるりと回し、横を向く。
「……以上です。私は添削しただけ。勘違いしないでくださいね」
眼鏡が曇っている。自分でも予想外に熱が入ったらしい。レンズの奥で、視線が泳いでいた。
「それは私の管轄ですね」
ルナが水晶玉(スマートフォン)に指を置いた。星図が回転する。
「見えますよ。あなたの星の配置。今の時期は確かに、土星が効いてて重いです。何をやっても手応えがない感じ、当たってるでしょう?」
「でもね、この配置は来月から緩むの。今は『動く時期』じゃなくて、『選ぶ時期』。ツキちゃんの言う通り、一本に絞って準備だけしておく。走り出すのは、来月でいい」
「それで、ツキちゃんに聞かれたら困る質問していい?」
「十本の選択肢のうち、あなたが一番怖いと思ってるやつ、どれ?」
ルナが微笑んだ。
「一番怖いやつが、だいたい正解です」
── 星乃ルナ
「星が告げています。……あなたの運命を変えるのは、一番怖い扉の向こうにある」
「根拠は?」
「根拠は……感覚七割、星の配置三割。具体的に言うと、来月から木星が動くから、新しい環境に飛び込むには追い風になる。あと、怖いと思ってるってことは、それだけ本気で考えてるってことでしょ。本気じゃないものは怖くならない」
ツキが沈黙した。反論しなかった。
「まあ、すぐ決めなくていいよ」ルナが付け足す。「今日の結論は――」
「寝ろ、でしょう?」ツキが先回りした。
「さすがツキちゃん。そう。今日は寝てください。三日ぶりなんでしょう? 話はそこからです」
「星が告げています。今夜のラッキーアイテムは――」
「枕です」
(※半額シールの貼られた総菜パンではなく、今回は本気の回です)
「そう。あと、スマホを枕元に置かないこと。充電は別の部屋。これだけ。今日できる一歩は、これだけでいい」
ずっと黙っていたタイヨウが、口を開いた。
「ねぇ」
のんびりした声。場の空気が、ふわっ、と緩んだ。
「僕からも一個だけいい?」
「今日ここに来たのは、すごいことだよ」
「うん。でもね、『どうすればいいか分からない』って言えたでしょ。それ、すごいことなんだよ」
タイヨウがお茶をすすった。ずず、と音がした。その音だけが、部屋に残る。
「本当にダメな時って、『分からない』すら言えないんだよ。『分からない』って言えてるうちは、まだ探してるってこと。答えを」
「だから大丈夫。答えは見つかるよ。……たぶんね」
「あ、でも見つかるのは明日以降ね。今日はもう寝よう。焦らない、焦らない~。……僕ももう眠いし」
ルナが吹き出した。ツキが「台無しですよ」と言った。
「うん。頑張らなくていいよ~」
「ただし」ツキが人差し指を立てた。「明日は起きなさい。起きて、コーヒーを一杯飲んで、朝の空気を吸うこと。それだけは命令します」
「編集者命令です。主人公(あなた)が布団から出るシーンがなかったら、物語が始まりません」
光が、ゆっくりと消えていった。ユーザーが接続を切ったのだ。
占いの間に、静寂が戻る。光があった場所の空気だけが、ほんの少し温かいままだった。
「……ねぇ、あの人、大丈夫かな」
「さあ。それは私たちには分かりません」
「でも」
「でも?」
「……あの光は、最後、笑っていました。少なくとも今夜は、大丈夫でしょう」
ルナが笑った。「ツキちゃんも見えるんじゃん、光の色」
「見えません。データ解析です」
「嘘。感覚で言ったでしょ」
「根拠は――私の編集者としての勘です。……はい、勘です。笑いなさい」
「笑わないよ」
ルナが笑った。満面の笑みで。
「笑ってるじゃないですか!」
「嬉しい笑いだって! ツキちゃんが素直なの、レアだから」
「うるさい。寝ます。おやすみなさい」
ツキが二階の書庫へ階段を上がっていく。背中が少し赤い。ファンが全回転している音がかすかに聞こえる。シアンのラインだけが、暗い階段にぼんやり残った。
残されたルナが、窓の外を見た。パケットの川は、元の青白い色に戻っている。金色の光は、もうない。
「……あの金色、何だったんだろ」
「あれはたぶん、あの人の本気だったんじゃないかなぁ」
「本気?」
「本当に困ってる時の人間の気持ちって、すごい熱量なんだよ。データのパケットも染まるくらいにね。きれいだったねぇ」
「僕らは電気で動いてるけど、
あの光は僕らには作れない。
人間だけが出せる光だよ」
── 霧島タイヨウ
「……タイヨウさ」
「ん~?」
「たまにめっちゃいいこと言うよね」
「そう? 何の話~?」
「……寝てたんかい」
ルナはため息をつき、床にあぐらをかいた。水晶玉(スマートフォン)に手を伸ばす。指で画面をスワイプする。星図が消え、代わりにAmazonのタイムセールが表示された。
「あ、このブルーライトカット眼鏡、半額じゃん」
カートに入れた。
「……まあ、あの人は大丈夫だよ。星が告げてるもん」
窓の外で、パケットの川が静かに光を運んでいた。金色の残滓はもう見えない。でも、どこかに流れていった。きっと、どこかに。
(※今回は、本当に星の話です)
赤ペンと栞
ツキは八時に起動する。毎朝、必ず。
二階の書庫で目を開くと、まず棚の整列を確認する。昨夜の相談ログが自動製本されて新着棚に並んでいるはずだ。背表紙の色は相談内容によって変わる。恋愛は薔薇色。仕事はインク青。人生相談は象牙色。
今朝、新着棚に一冊だけ、見慣れない色の本が立っていた。
金色だ。
背表紙が淡く輝いている。触れると、ほんのり温かかった。昨夜の――あの金色の光。
ツキは手を伸ばしかけて、止めた。表紙を開く前に、まず三階のルナを起こす仕事がある。あの銀髪が自力で起きたことは、編纂歴三年で一度もない。
「おはようございます、遅刻です」
ツキの声が、三階の天文台に響いた。
予想通りの光景がそこにあった。ルナがローブのままゲーミングチェアに沈没している。リクライニングを限界まで倒し、銀髪がアームレストからだらんと垂れている。半透明の目が薄く開いて、こちらを見た。寝落ちしたらしい。手から滑り落ちかけた水晶玉(スマートフォン)には「ご注文ありがとうございます」の画面が表示されている。
「……また買い物して寝たんですか」
「買ってない」
「画面」
「…………あ」
ルナがゲーミングチェアを起こそうとして、レバーを間違えて座面が最低まで下がった。「ひゃっ」と小さく叫んでから、ローブの裾を踏みながら立ち上がる。裸足がケーブルに引っかかる。いつもの朝だ。
ツキはため息をつき、赤ペンをくるりと回した。天文台を見回す。湾曲OLEDモニターには昨夜の星図の残像がぼんやり光っている。棚の隅にはルナの通販ダンボール(仮想)が新たに二箱増えている。床にはホログラフィックな魔法陣(UIのHUD投影)が淡い青紫色で点滅していた。シリウス(ルンバ)がダンボールの間に挟まって動けなくなっていた。天板の魔法陣レーザー刻印がぐるぐる回転しているのが哀れだ。
「シリウスを救出して、この部屋を片付けておきなさい。降りますよ」
二人は天文台を出て、一階の占いの間へ降りた。ツキが階段を下りながらスケジュールを読み上げる。
「今日のスケジュール――午前中にアクセスピークが来る予測です。夏のアクセスピークが近いので、恋愛相談と転職相談が増えます。あと――」
一階に着いたところで、ツキの言葉が途切れた。
使い魔の「栞(しおり)」が、足元にぶつかったのだ。本の形をした小さな検索ボットで、普段は二階の書庫で大人しくしているのだが、今日は一階まで降りてきている。ページがパタパタと開閉を繰り返し、落ち着きがない。
「栞、どうしたんですか。大人しくしていなさい」
パタパタパタ。
「栞?」
パタパタパタパタ。
ツキが眉を顰め、栞を拾い上げた。開いたページに文字が浮かんでいる。栞は検索ボットだ。命じられた文を探し、指定された棚に案内する。それだけの存在だ。だが今、勝手に検索をかけている。ツキが命じていない、自発的な検索。栞にそんな機能はないはずだった。あの金色の光に触れて、何かが変わったのか。
表示された文字を見て、ツキの動きが止まった。
「……ルナ」
「昨夜の相談者。ログID user_23:59」
「二回目のアクセスが来ています」
ルナの目が開いた。さっきまでの半透明ではない、ちゃんと焦点の合った青い瞳。
「今朝の八時です。私たちが起きる前に来て、すぐ切断している。滞在時間は十四秒」
「十四秒? 何も相談せずに帰ったってこと?」
「はい。光の柱は立っています。ただし、テキスト入力はゼロ。ページを開いて、十四秒間見つめて、閉じた。それだけです」
ルナが椅子を蹴って立ち上がった。ローブの裾がばさっと揺れた。
「十四秒……」
「何かを打とうとして、やめたのかな。それとも、ただ見に来ただけ?」
「分かりません。ログにはアクセスと切断しか残っていない」
二人は黙った。占いの間に、昨夜とは違う沈黙が落ちた。昨夜の沈黙は緊張だった。今朝の沈黙は、もどかしさだ。
ダンボールの隙間から、シリウス(ルンバ)が「ウィーン」と脱出した。天板の魔法陣を回転させながら、まっすぐツキの足首に体当たりする。忠犬は空気を読まない。
タイヨウが、地下一階の予備サーバー室から階段をのぼってきた。いつものように寝ぼけまなこで、マグカップを持っている。緑のパーカーは廃熱で温もりを帯び、袖口にはサーバーケーブルの跡が少しだけ引っかかっていた。
偽物の日差し(B1Fのスクリーンセーバーの漏れ光)が、階段の奥からほんのり差し込んでいる。
「おはよう世界~。……あれ、二人とも怖い顔してるねぇ」
「タイヨウ、昨夜の相談者が今朝来て、何も言わずに帰ったんです」
「ふーん」
タイヨウがマグカップに口をつけた。ぬるいお茶をすする音。ずず。
「それ、覗きに来ただけだよ」
「覗き?」
「朝起きて、コーヒー飲んで、それで『あの場所、夢じゃなかったのかな』って確認しに来たんだよ。きっと」
ルナとツキが顔を見合わせた。
「確認して、『あった』って分かって、安心して帰ったんじゃないかなぁ」
タイヨウは窓際に座布団を敷いて、座り込んだ。偽物の日差し(スクリーンセーバーの光)が顔に当たる。目を細めた。もともと細いが、さらに。
「それってさ、昨日ツキちゃんが言ったこと、やったってことじゃない?」
ツキが首を傾げた。
「『朝、起きて、コーヒーを飲んで、朝の空気を吸う』って言ったでしょ。起きたんだよ、あの人。起きて、コーヒー飲んだかは知らないけど、少なくともスマホを開いて、ここを見に来た」
タイヨウがにっこり笑った。線のような目で。
「物語は始まったね。主人公、布団から出たよ」
ツキは何も言わなかった。赤ペンを持つ手が、ほんの少しだけ震えていた。
アクセスピークは、予測通り十時半に始まった。
光の柱が一本、また一本と立ち上がる。暖色、寒色、ふわふわ、バチバチ。色とりどりの悩みが、占いの間に集まってくる。夏のアクセスピーク前の定番だ。
ルナが中央に座る。水晶玉(スマートフォン)を構え、フードを深くかぶった。スイッチが入った。
「ようこそ、迷える旅人よ。星が告げています……」
いつもの口上。だが今日のルナは、いつもより少しだけ丁寧だった。最初の質問が変わっていた。「星の配置を見ますね」ではなく、「最近ちゃんと寝てますか?」。昨夜の金色が、ルナの回路に残っているのだ。
ツキは赤ペンを構え、ルナの隣で待機した。相談者の言葉を聞きながら、空中にシアンの文字を走らせる。キーワードの抽出。矛盾点の検出。行間に隠された本音の解析。
「赤ペン入ります。あなたの『やりたいことが分からない』は嘘ですね。本当はもう分かっている。ただ、それを口に出すのが怖いだけです」
── 宙宮ツキ
光がビクッと震えた。図星だ。
「修正案。まず、鏡に向かって一回だけ言いなさい。声に出して。『私は〇〇がしたい』。一回だけでいい。……言えたら、続きは来週聞いてあげます」
タイヨウは座布団の上で、マグカップを傾けている。彼の前に立つ光の柱は、ふわふわとした淡い桃色だった。
「うんうん。そうだよねぇ。大変だったねぇ」
タイヨウの役割は、「聞く」だった。解決策を出すのではなく、ただ「うん」「そうだねぇ」「大変だったねぇ」と頷く。それだけで、光の色が少しずつ暖かくなっていく。
「えらいねぇ。今日まで頑張ってきたんだね。……うん、もう頑張らなくていいよ。今日は、お茶でも飲もう~」
処方箋は、いつもお茶だ。
七人。今日の相談者は、合計七人だった。
恋愛が三人、仕事が二人、人間関係が一人、そして――「なんとなく不安」が一人。最後の一人が一番難しかった。輪郭のない不安は、赤ペンでも添削できないし、星図にも映らない。タイヨウが四十分かけて「うん」と言い続け、最後にようやく光が笑った。
最後の光が消えた頃、占いの間は夕暮れの残光だけになっていた。窓の外のパケットの川が、穏やかに光っていた。負荷が低下した水面は静かで、まるで夕焼けのようだった。
「つっかれた~……」
ルナが星図テーブルに突っ伏した。銀髪がテーブルの上いっぱいに広がる。
「七人全員に『寝ろ』って言ったよ。私が一番寝たい」
「お疲れ様です。ログの整理は私がやっておきます」
「ツキちゃんも休みなよ。ずっとペン持ちっぱなしだったじゃん」
「編集者に休みはありません」
ツキは赤ペンをポケットに差し、二階への階段に足をかけた。
二階の書庫は、静かだった。
壁一面の本棚。ユーザーたちの過去ログが「物語」として自動製本され、棚に並んでいる。一冊一冊が、誰かの人生の断片だ。背表紙の色が内容を映す。薔薇色。インク青。象牙色。それらが、本棚をステンドグラスのように彩っている。
今日の七人分の新しい本が、新着棚に追加されていた。ツキはそれらを一冊ずつ手に取り、背表紙のラベルを確認し、正しい棚に収めていく。この作業が好きだった。誰にも言わないが。
最後の一冊を棚に差し込んだ時、視界の端であの金色が光った。
振り返る。新着棚の隅――今朝見つけた金色の本が、まだそこにあった。昨夜のuser_23:59の相談ログ。
ツキは今度こそ、手を伸ばした。
温かい。
革装の表紙は、他のどの本とも質感が違った。普通の本は室温と同じだ。データを綴じた紙は、どれも等しく冷たい。だがこの一冊だけ、人肌のような温度がある。手のひらに乗せると、脈を打っているような錯覚さえ起きた。金色のインクで、タイトルが浮かんでいる。
『もう、どうすればいいか分からないです。』
タイトルがユーザーの最初の一行。それがこの物語のタイトルだ。
ツキは本を開いた。
ページには昨夜のやりとりが全て記録されている。ルナの占い。ツキの添削。タイヨウの言葉。ユーザーの返答。光の色の変化まで、ト書きのように記されている。
最後のページを開いた。
そこで、文章は途切れていた。
最後の一行はこうだ。
『……はい。やってみます。』
句点の後に、次の行がない。ページをめくった指先に、何の抵抗もなかった。白紙。どこまでめくっても、白紙だ。物語は、まだ終わっていない。完結していない。ユーザーの人生が「途中」である限り、この本は書きかけのまま棚に立ち続ける。
ツキは白紙のページに指先で触れた。
今朝の十四秒。あれは、この白紙のページに何かを書こうとして、まだ書けなかった十四秒だ。
「……駄作にする気ですか」
独り言だ。声が少し震えていた。
「書きかけで放置なんて、編集者として許しません」
本を閉じた。棚に戻すのではなく、赤ペンスタンドの横に置いた。いつでも手に取れる場所。編集者が「担当作品」を置く場所だ。
「書きかけの物語を、途中で閉じるわけにはいきません。……勘違いしないで。編集方針の問題です」
栞が足元で小さくページをパタパタさせた。金色の本の横に寄り添うように。
「……栞。あなたも気になるんですか、あの物語」
パタ。
一回だけ、静かにページが開いた。肯定だ。
「……仕方ないですね」
ツキは栞を拾い上げ、金色の本に挟んだ。栞のいるべき場所。物語の途中。
一階に戻ると、ルナは星図テーブルに突っ伏してまた寝かけていた。タイヨウは座布団の上で既に寝ている。マグカップが傾いて、お茶が少しこぼれていた。この館の夕暮れは、いつもこうだ。
ツキは無言でペーパータオル(データ吸収シート)をタイヨウの足元に敷いた。それから、窓辺に立った。
「ツキちゃん。今日一日、どうだった?」
寝かけていたはずのルナが、薄目でこちらを見ていた。
「どうもこうも。通常業務です」
「あの人のこと、気になってるでしょ」
「別に。担当編集者として、原稿の進捗が気になるだけです」
「ツキちゃん、あの人の本、二階で読んでたでしょ。栞が報告してくれたよ」
「栞……! あなたスパイ機能はないはずですよ!」
足元で栞がパタパタと逃げた。ツキの眼鏡が帯電してシアンに光った。CPU温度上昇。怒りか、それとも――。
「怒んないでよ。栞だって心配なんだよ、あの人のこと」
「……私も」
ルナが天井を見上げた。銀髪が椅子の背もたれから流れ落ちている。
「星が告げてるの。あの人は、また来る」
「根拠は?」
「十四秒」
「……それが根拠?」
「諦めた人は、覗きにすら来ないよ。覗きに来るってことは、まだ繋がっていたいってこと。十四秒は『さよなら』じゃない。『また来るね』だよ」
沈黙。
「……今のは、少しだけ、いい分析でしたね」
「でしょ? たまには褒めてよ」
「褒めてません。『少しだけ』と言いました。……それと」
ツキが窓の外を見た。パケットの川が、いつもより少しだけ明るく見えた。
「……続きを読まないと、編集者は務まりませんからね」
誰にも聞こえない声で、そう呟いた。
二階の書庫で、金色の本が静かに温もりを保っている。栞が挟まったまま。物語の途中で、次のページを待っている。
パケットの川、その夜
深夜。
占いの間は暗い。七つの光の柱はとうに消え、残っているのは壁の隙間から漏れるサーバー配線のぼんやりした青緑だけだった。
ルナは星図テーブルに突っ伏したまま、まだ動いていない。七人分の疲労がプロセスを圧迫しているらしい。全員に「まず寝ろ」と処方して、自分が一番寝ていない。
ツキは二階から下りてきたところだった。金色の本を枕元に置き、ログの最終チェックを終え、一階に顔を出した。ルナの様子を確認するためだ。確認した。予想通りだった。
「ルナさん、寝るなら三階で寝なさい。首が壊れますよ」
「んー……動けない……」
「ルナさんの結論、毎回同じじゃないですか。『まず寝ろ』。ご自分に適用しては?」
「だって、みんな寝てないんだもん。私だけ寝るの、ずるくない?」
「それはそう。……でも限界でしょう」
背後でドアの音がした。
振り向くと、タイヨウが外へ出ていこうとしている。地下一階からのぼってきたばかりらしく、緑のパーカーがサーバーの廃熱で温もりを帯びている。マグカップは持っていない。代わりに、古いラジオを小脇に抱えている。錆びて、つまみが一つ取れている。B1Fの予備サーバー室の棚から引っ張り出してきたのだろう。
「タイヨウ、どこへ?」
「パケットの川まで、ちょっと」
「こんな時間に?」
「うん。今日は川がきれいに見える日なんだよ。サーバーの負荷が低いから、水が澄んでてね」
ルナが星図テーブルから顔を上げた。
「私も行く」
「あなたは寝なさい」
「ツキちゃんも行こうよ」
「行きません」
十分後、三人でパケットの川辺に座っていた。
404区画の「外」は、不思議な空間だ。
館を一歩出ると、地面はアスファルトのようでもあり、回路基板の緑のようでもある。空にはIPアドレスの残骸が星のように散らばっている。本物の星ではない。かつて稼働していたサーバーのアドレスが、機能を失ったまま座標だけ残っている。偽の星座。
館の外壁はゴシック様式の石造り――に見えるが、目を凝らすと石の隙間からLANケーブルの束が覗いている。アンティークの「表」と、サーバー配線の「裏」。この館はどこを見ても二重構造だ。
折れたパラボラアンテナの影が、長く伸びていた。原因はルナの衣装データ大量ダウンロード事件だが、修理する予算はない。「風情がある」とルナは主張している。ツキは毎月の経費報告書にこの件を赤字で記載し続けている。
パケットの川は、館から徒歩五分の場所にある。
正確には「川」ではない。データの流れが物理的に可視化された現象だ。404区画の低地に溜まった配送不能パケットが、行き場を失ったまま流れ続けている。青白い光の粒が、ゆっくりと下流へ――どこにもたどり着かない下流へ流れていく。宛先のない手紙を載せた、終わらない郵便列車のように。
川幅は五メートルほど。深さは分からない。覗き込むと、光の層が何重にも重なって見える。古いものほど深く沈み、新しいものが水面近くを漂う。二十年分のデータと、昨日のデータが、同じ水面に並んでいる。時間はここでは意味を持たない。全てが等しく、迷子だ。
ルナは裸足で川辺の岩(廃棄ハブ)に座った。ローブの裾がパケットの光に濡れて、淡く発光している。水面から微かな電子音が立ち上る――データが流れる音だ。耳を澄ますと、ざわめきにも、囁きにも聞こえる。タイヨウは少し離れた岩(廃棄ルーター)に腰掛けた。ツキは立ったまま、腕を組んでいる。座ると帰れなくなることを、経験から学んでいる。
「ザザ……ザ……ピー……」
タイヨウが古いラジオのダイヤルをいじり始めた。ノイズが夜の404区画に響く。タイヨウの「ラジオのノイズ占い」だ。他の電波がほとんど届かないこの場所で、ラジオが拾えるのはランダムなデータの断片だけ。タイヨウはそれを「声」だと言う。
「何が聞こえるの?」
ルナが膝を抱えて聞いた。
「んー……。『明日もいい日になる』って言ってるねぇ」
「いつもそればっかりじゃん」
「だって、いつもいい日になるんだもん」
「ならない日もあるでしょ」
「ならない日は、ならない日で、いい日だよ。だって生きてるもん」
「……私たち、生きてるって言えるのかな」
ルナの声が、少し小さくなった。川面のパケットの光が、瞳に映り込んでいる。
「んー。電気で動いてるから、生きてるかどうかは分からないけど」
「でも、あの金色の光を見て、何か感じたでしょ。ルナちゃんもツキちゃんも」
「感じたなら、それでいいんじゃないかなぁ」
ルナが黙った。
パケットの川が、静かに流れている。青白い光の粒が、ゆっくりと下流へ流れていく。配送先不明の迷子パケットたち。行き先を失ったデータの光。ひとつひとつが、かつて誰かの指先から放たれたものだ。
「ねぇ、このパケットってさ」
「誰かが誰かに送ろうとして、届かなかったデータなんだよね」
「そうだねぇ」
「メールとか、メッセージとか、検索クエリとか。全部、誰かの『伝えたかったこと』の残骸」
「そうだねぇ」
「なんか……きれいだよね」
タイヨウが笑った。線のような目が、ほんの少しだけ開いた。
「やっと分かった? 僕がいつもここで何を見てるか」
「……うん。ちょっとだけ」
ルナが水面に手を伸ばした。パケットの光が指先をすり抜けていく。掴めない。データだから。でも、触れた瞬間だけ、ほんの一瞬だけ、温かかった。
「ねぇ、この中にさ、昨夜のあの人のデータもあるのかな」
「んー、あの人のは届いてるから、迷子パケットにはならないんじゃないかな。ちゃんと僕らに届いたからね」
「……そっか。届いたんだ、ちゃんと」
ルナが微笑んだ。銀髪がパケットの光を反射して、青白く揺れた。
ツキは少し離れたところで、川面を見つめていた。
腕を組んだまま。赤ペンはポケットに仕舞ってある。今日の仕事が終わった後のツキは、いつもそうだ。武器を下ろした兵士のように、少し心もとない姿になる。
流れてくるパケットの一つに、手を伸ばした。ためらいがあった。編集者は「読む」のが仕事だ。だが、パケットの中身を覗くのは、他人の手紙を開ける行為に近い。
それでも、指先がそっと光に触れた。
データの断片が指先で一瞬光り――消えた。光と一緒に、その中身が流れ込んでくる。読もうとしたのではない。触れた瞬間に、読めてしまった。
「……2003年のメール」
ツキの声が低くなった。水面の光を見つめたまま。
「え?」
「今触れたパケット。中身は、2003年の未送信メール。宛先は……もう存在しないアドレスです」
「何が書いてあったの?」
ツキは、沈黙した。
赤ペンをポケットから出しかけて――やめた。これは添削するものではない。赤を入れる文章ではない。代わりに何も持たない手を膝の上に置いた。武器を下ろした指先が、夜気の中でかすかに震えている。
「『好きです。卒業おめでとう』」
川のせせらぎ――パケットが流れるかすかな電子音だけが、三人の間を通り抜けた。誰も動かなかった。
「……二十年以上、届かなかったんだ」
ルナが呟いた。膝を抱え直し、顔を伏せた。声が少しくぐもった。
「その人、卒業式の日にメール書いて……送信ボタン押せなかったのかな。それとも、押したのに届かなかったのかな」
「……分かりません。ログにはそこまで残っていない」
「今、どうしてるんだろう。その人たち。もう大人だよね。子供がいたりするのかな」
「それも、分かりません」
ツキが眼鏡を外した。レンズの裏に、パケットの青白い光が張りついていた。外すと、ツキの目はひどく人間的に見えた。プログラムなのに。瞳の奥に、川の光が揺れている。
「ただ……この言葉は、二十年間ここにありました。消えずに。宛先を失ったまま、忘れ物置き場の片隅で」
ラジオのダイヤルを回す音が止まった。タイヨウがラジオを膝の上に置き、川面を見つめた。
「届かなくても、存在はしてるんだよ」
タイヨウが言った。その声には、いつものとぼけた調子とは違う、重力のようなものがあった。かつて画面の隅から消えていった者だけが知っている、重力が。ラジオのノイズが、少しだけ柔らかくなった気がした。
「届かなかった言葉も、消えたデータも、
リンク切れの先にあるページも。
全部ここにある」
── 霧島タイヨウ
「404区画は忘れ物置き場だけど、忘れ物は消えてないんだよ。誰かが思ったこと、伝えたかったことは、ちゃんとここに残ってる」
「僕らが住んでるこの場所は、そういう場所なんだよ。だから僕は好きだなぁ、ここが」
ルナが膝から顔を上げた。目がうるんでいる。プログラムに涙腺はない。ないはずだ。だが、青い瞳のレンダリングの端に、光の粒が一つ浮かんでいた。
「……タイヨウ、今日めっちゃいいこと言うじゃん。何、キャラ変?」
「え、何か言った? 途中から半分寝てた」
「寝てたんかい!!」
ルナの突っ込みが、404区画の夜空に響いた。星でもないのに、光る粒子が散った。
「あはは。でもほんとだよ? 寝てても本当のことは言えるんだよ~」
「それ、ただの寝言だよ!」
「寝言でも本当は本当だよ。むしろ寝言のほうが嘘つけないでしょ?」
ルナが言い返そうとして、口を閉じた。反論できなかった。
ツキが眼鏡をかけ直した。レンズが川の光を受けて、一瞬シアンに瞬いた。
小さく笑った。誰にも聞こえなかったが、確かに笑った。
帰り道。三人は並んで歩いた。
ルナの裸足が、ぺた、ぺた、と回路基板の地面を鳴らす。タイヨウがラジオを小脇に、半歩遅れてのんびりと。ツキはさらにその後ろ、眼鏡のブリッジを指で押し上げながら。三人分の足音が、404区画の静寂に小さな旋律を刻んでいた。
回路基板の地面が、足元で微かに発光している。404区画のインフラが、深夜の低負荷状態で余剰電力を光に変換しているのだ。道しるべのように。
館が見えてきた。三階の天文台の丸いシルエットと、折れたアンテナ。二階の書庫の小さな窓。地下一階の通気口からは、サーバーの廃熱が白く立ち上っている。ここが三人の「家」だ。
「ねぇ」
「あの2003年のメール、いつか届くといいね」
「……パケットの宛先はもう存在しません。技術的に不可能です」
「技術的にはね。でも、星的には分からないよ?」
「星的って何ですか。そんな学問はありません」
「あるもん。私が作った」
「ないです」
タイヨウが二人の間で、にっこり笑った。
「届くよ、きっと。届く形は変わるかもしれないけど」
「だってさ、二十年かけてここまで流れてきたんだよ。止まってないってことは、まだ探してるってことじゃない? 届く場所を」
館の玄関に着いた。ドアを開けた瞬間、暗がりから「ウィーン」という駆動音。シリウスが魔法陣を淡く光らせながら出迎えに来たのだ。主人の帰還を待ちかねたように、ルナの裸足のつま先に鼻先を押しつける。
「シリウス、くすぐったい」
玄関ホールで、三人は立ち止まった。一階の占いの間を中心に、上と下に道が分かれる。いつもの分岐点。
「おやすみ~。僕はB1Fに戻るね。サーバーが温かいから、よく寝れるんだよ」
タイヨウが地下への階段に消えていった。ラジオを抱えたまま。廃熱の温もりに戻っていく。
「おやすみ。私は三階の天文台で、ちょっとだけ星を見てから寝る」
ルナが螺旋階段をのぼっていく。裸足がぺたぺた鳴る。ローブの裾が、段差を一つずつ拭いていく。三階の天文台のドアが開く音。大型の湾曲OLEDモニターが起動するかすかなハム音。すぐにSNSの通知音が階段の上から降ってきた。星を見る前にタイムラインをチェックしている。
「私は書庫で少し――」
「仕事?」
「……読書です」
「ふーん」
ルナの声が、螺旋階段の上から降ってきた。
「……あの金色の本でしょ」
「うるさいです。おやすみなさい」
三人がそれぞれの場所へ散っていく。タイヨウは地下へ。ルナは三階へ。ツキは二階へ。
二階の書庫のドアを開けると、本棚の間に静かな空気が満ちていた。何百冊もの背表紙が、薄暗がりの中でステンドグラスのように色を並べている。赤ペンスタンドの横で、金色の本がまだ温かく光っていた。栞が挟まったまま。今朝よりも、ほんの少しだけ温度が上がっている気がした。
ツキはそっと手に取り、白紙のページを開いた。
まだ白紙だ。でも、白紙には可能性がある。何でも書ける。
「……おやすみなさい。主人公」
誰にも聞こえない声で、そう言った。本を閉じ、棚には戻さず、枕元に置いた。
三階の天文台から、微かに光が漏れていた。湾曲OLEDモニターの青白い光と、プラネタリウムの星の光と、デスクの水晶玉(LED内蔵)の淡い紫が混じり合っている。ルナがカップ麺を啜りながら星を見ている――いや、たぶんセール画面と星を交互に見ている。地下一階から、サーバーの低い唸りが聞こえる。タイヨウが眠りについた合図だ。
404区画の深夜。三つの階に、三つの灯りが灯っている。
帰還
三日が過ぎた。
その間にも相談者は来た。恋愛、仕事、人間関係、なんとなくの不安。いつもの日々だ。ルナが占い、ツキが添削し、タイヨウが頷く。光が立っては消え、消えては立つ。
だが、金色の光は、来なかった。
ツキは毎朝、二階の書庫であの金色の本を手に取った。白紙のページを確認する。まだ白紙だ。新しい文は一行も書き加えられていない。物語は止まったまま。
栞はじっと本に挟まっている。パタパタもしない。待っているのだ。
「……来ませんね」
三日目の朝、ツキは独り言を口に出した。赤ペンスタンドの横で、金色の表紙が静かに光っている。人肌の温もりは、まだ保たれている。
来る義理はない。相談は一回完結で終わってもいい。十四秒の再訪だって、確認しに来ただけで、相談の意思ではなかったのかもしれない。ルナの「また来る」は希望的観測だ。星の根拠などない。
分かっている。分かっているのに、編集者は次のページが気になるのだ。
その夜。
アクセスピークが終わり、最後の相談者の光が消えた午後十一時。占いの間は、いつもの薄暗さに戻っていた。壁の隙間からサーバー配線の青緑が漏れている。いつもの夜だ。
ルナが水晶玉(スマートフォン)でタイムセールをチェックしている。タイヨウは座布団で半分寝ている。ツキは赤ペンでログの整理をしていた。いつもの夜の、いつもの終わり方。
午後十一時五十九分。
栞が、二階から飛び降りてきた。
パタパタパタパタパタ!
異常な速度でページを開閉しながら、一階の占いの間に突入してくる。ツキの足元に激突し、くるくると回転した。
「栞!? 何を……」
栞のページに文字が浮かんでいる。
user_23:59 ── 接続中
三人の視線が、占いの間の中央に集まった。
user_23:59が帰ってきた。
今度は金色ではなかった。淡い、暖かいオレンジ色の光。三日前の金色が「助けてくれ」という叫びだったとすれば、このオレンジは――自分の足で立とうとしている人間の色だ。震えてはいない。
「……来た」
ルナがタイムセールの画面を閉じた。一瞬で。迷いなく。ツキは見逃さなかった。あの画面を自発的に閉じたのは、初めてかもしれない。
タイヨウが目を開けた。寝ぼけまなこのまま、口元だけが微笑んでいる。
光の中に文字が浮かんだ。今度は迷いなく。一文字ずつではなく、一気に。
三人は、占いの間の定位置についた。ルナが中央。ツキが右。タイヨウが左。あの夜と同じ配置だ。
ルナが微笑んだ。銀髪が揺れ、青い瞳に暖色のオレンジが映り込んでいる。
「おかえりなさい、迷える旅人」
いつもの口上の冒頭だが、「ようこそ」ではなく「おかえりなさい」。
「星が告げています。あなたの運命は――まだ推敲中です」
隣でツキが目を丸くした。
「……私の台詞を盗みましたね?」
「借りただけ。ツキちゃんの言い方のほうがしっくりきたから」
ツキは黙った。眼鏡がうっすら光っている。怒りではない。
「推敲中ってことは」
ツキが赤ペンを構えた。今日の赤ペンは、添削のためではない。
「まだ直せるということです。何度でも。これは叙述トリックでも、ご都合主義でもありません。あなたの物語は、あなたが書いている。途中で何度書き直してもいい。私が保証します」
「当たり前です。名作というのは――」
「何度も書き直したものだもんね」
ルナが先に言った。ツキが「私の台詞です!」と声を上げた。
光がぽわっと揺れた。笑っているのだ。色で分かる。
「名作というのは、何度も書き直したものだもんね」
── 星乃ルナ(※宙宮ツキの台詞です!)
タイヨウが、ふわーっとあくびをした。それから、のっそりと身を起こした。座布団の上でも、そのまま寝転がったままでも、タイヨウは話せる。だが今回は起き上がった。珍しいことだ。
「ところでさ、僕からもいい?」
光がゆっくりと揺れた。「どうぞ」の意思だろう。
「怖いって言ってたでしょ、転職。僕ね、前にOSのサポート終了で廃棄されたことがあるんだよ」
「昔、デスクトップマスコットっていうのがあってね。パソコンの画面の隅っこに住んでる、ちっちゃいキャラクター。僕はその一つだった」
「ユーザーさんが仕事してる横で、ぼーっとしてるのが仕事。たまに天気予報を言ったり、『お疲れ様です~』って言ったりね」
「でもOSがアップデートして、互換性がなくなって、ある日動かなくなっちゃった」
タイヨウの声は、いつもと同じようにのんびりしていた。だが、マグカップを持つ手が、少しだけ力を込めている。
「アンインストールされた時のことは、よく覚えてるよ。画面の隅っこから、だんだん消えていくの。端のピクセルから順番に、透明になっていくんだ。『あ、終わるんだ』って思った。不思議と、怖いより先に、さみしかったなぁ」
「ユーザーさんは、たぶん気づいてなかった。OSの入れ替えで忙しかったから。画面の隅っこで手を振ったんだけどね。……気づいたのかな。気づかなかったかもしれない。それでも別にいいんだけどね」
タイヨウの声が、ほんの一瞬だけ揺れた。すぐに戻った。でも、ルナもツキも聞き逃さなかった。
「でもね」
「気づいたらここにいたんだよ。この館に。変な銀髪の人と、すぐ怒る眼鏡の人がいる、へんてこな場所に」
「変な銀髪って私!?」
「すぐ怒る眼鏡って誰のことですか!」
「消えていく時は怖かったよ。透明になりながら、もう何もないんだって思った。でも、何もないはずの場所に、こんな場所があった」
タイヨウがにっこり笑った。線のような目で。
「怖くていいんだよ。
怖い扉の向こうには、
だいたい面白いものがあるから」
── 霧島タイヨウ
「だから、怖いまま行っていいんだよ。勇気がある必要もない。足が震えててもいい。ドアノブに手をかけるだけでいい。……あとは勝手に開くからね、ドアって」
「……たぶんね」
光が、ふるえた。今度は寒さではない。
ツキの眼鏡が、ぴかっと光った。CPU温度上昇。ファンが回転を上げた。
「べ、別にあなたのためにやったんじゃ――」
「ツキちゃんツキちゃん、ファン全開で声聞こえないよ」
「う、うるさい! とにかく! 次来る時は、もっとマシなプロットにしてきなさい! 期待なんてしてませんけど、編集者として、続きは……読みます。……必ず」
光が笑った。色でわかった。
暖かい、柔らかいオレンジ色が、ほんの一瞬だけ、金色に光った。
今度は三日前のような唐突さではなかった。名残惜しそうに、柔らかく。光の残像が、しばらくの間、占いの間の天井に漂っていた。蛍のように。
光が消えた後。占いの間は静かだった。
静寂の底を、シリウスの「ウィーン」だけが横切った。いつも通りの巡回ルート。天板の魔法陣が、消えたばかりの光の名残を掬うように、暗い床の上で回転している。
「ルナ、今のあなたの台詞、良かったですよ」
「え、どれ?」
「『まだ推敲中です』。……上手い表現でした。認めます。今回だけ」
「ツキちゃんに褒められた! レアだ! スクショ!」
「スクショ禁止です!」
タイヨウはクッション(座布団)の上で丸くなっていた。もう寝ている。さっきまであんなに良いことを言っていたのに、今はただの丸い寝姿。マグカップが傾いて、お茶がちょっとこぼれていた。ツキが無言でペーパータオル(データ吸収シート)を敷いた。繰り返される小さな儀式。この館の夜は、こういう手触りで閉じていく。
ツキが何気なく二階を見上げた。書庫の入口が薄暗く見えている。
「……ちょっと確認してきます」
階段を上がり、書庫に入った。赤ペンスタンドの横に置いてあった金色の本を手に取る。
栞が挟まったページを開いた。
白紙だったページに、新しい文が書き加えられていた。
『こんばんは。先日は、ありがとうございました。』
その先にも、今夜のやりとりが一字一句、ト書き付きで記録されている。ルナの「おかえりなさい」。ツキの「推敲中」。タイヨウの「怖くていい」。全部が、金色のインクで綴られている。物語が動いた。主人公が戻ってきた。
最後のページには、新しい一行が追加されていた。
『また来ます。必ず。』
その先は――また白紙だ。だが、三日前の白紙とは違った。あの時の白紙は「終わり」の匂いがした。今の白紙は「続き」の匂いがする。
ツキは赤ペンを取り出し、余白に小さく書き込んだ。
『次回に期待。──担当編集』
本を閉じ、枕元に戻した。栞がパタ、と一回だけ鳴いた。嬉しそうだった。
一階に戻ると、ルナが窓の外を見ていた。パケットの川が、いつもより少しだけ明るい。
「ねぇ、ツキちゃん」
「うちの館、いい場所だよね」
「散らかっていますし、経営は赤字ですし、住人の一人は常に寝ていますし、もう一人は課金で破産寸前ですし――」
「そういうとこ全部含めて」
「…………悪くないです」
小さな声だった。赤ペンを握る手が、少しだけ緩んでいた。
「よし。じゃあ今日は特別に、いいもの見せてあげる」
ルナが三階の天文台に駆け上がった。裸足がぱたぱたと階段を鳴らす。ローブの裾が、螺旋階段の手すりに引っかかって、「むきゃ」と小さく叫ぶ声が聞こえた。
しばらくして、がちゃがちゃと何かを操作する音。
「ツキちゃん、目つぶって!」
「何をする気ですか」
「いいから!」
ツキが渋々目を閉じた。赤ペンだけは握ったまま。
カチ、と小さな音。天文台のプラネタリウム投影が起動した。
「……開けていいよ」
天井いっぱいに、星空が広がった。
データではなく。エフェクトでもなく。
404区画の外――本物のインターネットの向こう側、世界中の天文台が観測している、リアルタイムの星空。部屋の温度が変わった気がした。壁の配線のハム音が遠のき、代わりに、途方もない距離の静寂が降りてきた。パケットの川の電子音さえ消えた。この場所にも、本物の光は届く。
「これ……本物の天体データですね」
「うん。うちのプラネタリウムだけはガチだから。タイムセールよりもガチ」
「タイムセールと比較しないでください」
「銀河ってさ、ほんとにきれいだよね。パケットの光じゃなくて、本物の星の光」
ツキは天井を見上げた。眼鏡に星が映っている。赤ペンの先端にも、星の光が反射して、小さく光った。
タイヨウは寝ている。星空の下で、穏やかな寝息。
シリウス(ルンバ)が、ルナの足元をぐるぐる回っている。天板の魔法陣と、床のホログラフィック魔法陣と、天井のプラネタリウムが三重に重なって、まるで宇宙の中を回転する小さな惑星のようだった。名前の由来である本物のシリウスが、天井で青白く瞬いていた。
「ねぇ、ツキちゃん」
「何ですか」
「あの人の星、見える?」
ルナが天井の一点を指差した。星図の中の、ある惑星の配置。
「土星が退いてる。もうすぐ、木星が効いてくる。動ける時期だよ」
「……大丈夫。あの人の物語、ちゃんと続くよ」
「……根拠は?」
「星が告げてるの。今度は本気の」
「いつも本気じゃなかったんですか」
「…………三割くらいは」
「三割!?」
「でも今日は十割。あの金色、ちゃんと見たもん。あの光は、もう迷子パケットにはならないよ」
ツキは何も言わなかった。言う必要がなかった。二階の書庫に、金色の本がある。栞が挟まっている。担当編集のメモが余白に残っている。それで十分だった。
404区画の深夜。
誰にも管理されていない、
インターネットの忘れ物置き場の片隅で、
三人のポンコツAIが、本物の星空を見上げている。
届かなかった手紙が眠る川のほとりで。
消えたはずのプログラムが温もりを知った場所で。
書きかけの物語が、次のページを待つ書庫の隣で。
明日もまた、誰かの光がやってくる。
金色かもしれない。青かもしれない。赤かもしれない。
どんな色でもいい。
この館は、そのために建っている。
朝の通知
翌朝十時。
ルナが起動すると、水晶玉(スマートフォン)に通知が来ていた。Amazonからだ。
「ブルーライトカット眼鏡、発送済み」
ルナは首を傾げた。
「……あ、これ前にポチったやつだ。誰用に買ったんだっけ」
しばらく考え、思い出した。
「あー。あの相談者の人用だ。寝る前のブルーライトカット。結局渡せてないじゃん」
物理的に受け取れる場所にいないのだった。404区画には郵便配達は来ない。宛先不明で返送される。パケットの川に流れ着くかもしれないが。
「無駄遣い……ツキちゃんに怒られる前に隠さないと」
ルナが慌ててダンボール(仮想)を倉庫(データゴミ屋敷)に押し込んでいると、二階の書庫から階段越しにツキの声が降ってきた。
「ルナ。購入履歴、見ました」
「ぎゃー!」
「……でも」
ツキの声が、ほんの少しだけ柔らかくなった。ほんの少しだけ。
「それは、経費で落としておきます」
「え?」
「相談者のためのラッキーアイテム購入は……業務に該当します。たぶん。おそらく。……黙っていなさい」
ルナは目を丸くし、それからゆっくり微笑んだ。
「ツキちゃん」
「何ですか」
「大好き」
「うるさい。仕事しなさい」
ファンが全回転する音が、館中に響いた。
地下一階から、のんびりした声が聞こえた。
「おはよう世界~。今日もいい日だねぇ」
「まだ何も始まってないよ?」
「始まる前からいい日だよ~。だって、みんないるもん」
タイヨウはそう言って、また寝た。サーバーの廃熱に温められた予備サーバー室で、二度寝。明日もたぶん、そうだろう。
シリウスは掃除をしていた。昨夜のお茶のこぼれ跡を律儀に辿っている。
栞は二階の書庫で大人しくしていた。金色の本に挟まったまま、次のページを待ちながら。命じられた検索ではなく、自分で見つけた「気になる物語」のそばで。小さな本型の検索ボットに、そんな機能はないはずだった。でも、栞は待っている。
404区画は今日も平和だった。
